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研究内容

 私たちの研究室では、グラフェン(Graphene)を中心に研究を進めています。このページではグラフェンの性質、作製方法ならびに、評価手法について簡単に説明します。

グラフェン

グラフェンの特徴

 半導体デバイスの性能は、近年の技術革新によって向上し続けています。しかし、微細化技術によるシリコン半導体の性能向上は、限界を迎えつつあり、これ以上の性能向上は年々困難になってきています。そこで、シリコンに変わる新たな電子材料として、優れた電子輸送特性をもつグラフェンが注目されています。
 グラフェンは、図1に示すように炭素原子が平面上で六角形格子状に並んだ構造(ハニカム構造)をしており、厚さは炭素原子1つ分(0.335nm)です。また、電気的、機械的、光学的に優れた特性を有しており、熱的、化学的にも安定しています。特に、電子輸送特性は既知材料中で最高のキャリア移動度をもっており、室温(300[K])で10,000cm2/Vs、低温(〜5[K])で200,000cm2/Vsという大変優れた値を誇ります。

グラフェンの構造
図1:グラフェンの構造

グラフェンの作製法

 グラフェンの作製法として機械的剥離法、化学気相成長法(CVD法)、SiC熱分解法があげられます。以下に簡単にまとめたものを紹介します。

  • 機械的剥離法
    機械的剥離法は、高配向熱分解黒鉛(HOPG)やキッシュグラファイトの結晶をスコッチテープ等によって剥離しグラフェンを得る方法です。この方法で得たグラフェンは高品質ではありますが、大きさが数μm2と小さいため、工業的利用には不向きです。

  • 化学気相成長法(CVD法)
    化学気相成長法は、銅箔上にメタンを反応させ、銅箔表面にグラフェンを成長させる方法です。大面積のグラフェンを得られますがデバイス化に応用する際、他の基板に転写する必要があります。また、得られたグラフェンは単結晶ではなく、単層のグラフェンを得ることも難しい方法です。

  • SiC熱分解法
    SiC熱分解法は、単結晶の炭化ケイ素(SiC)を1000℃以上の高温に加熱することで、表面のSi原子を昇華させ、炭素原子を表面に残す事でグラフェンを形成する方法です。図2にその過程を示します。SiC基板上で成長させるため大面積で高品質な単結晶単層グラフェンを得ることが可能です。また、SiC基板が絶縁性であるため転写技術を必要とせず、そのままデバイス化することができます。私たちの研究室では、このSiC熱分解法を用いて大面積かつ高品質なグラフェンの作製を行っています。

SiC熱分解法

図2:SiC熱分解法

ナノ計測

走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)

 私たちの研究室では、グラフェンの評価方法の一つとして、SPM(Scanning Probe Microscope)を用いた試料評価を行っています。SPMとは、試料と探針(プローブ)間にはたらく微小な力を検出しながら探針を走査することで、ナノスケールの表面情報を得ることが可能な新世代の顕微鏡です。このSPMには多様な測定モードがあり、必要に応じて様々な観点から試料を評価することが可能です。下に主な測定モードの簡単な説明を記します。

  • AFM(Atomic Force Microscope)
    試料-探針間にはたらく原子間力(ファンデルワールス力)をカンチレバーの変位から測定することで、試料の表面形状を得ることができます。

  • DFM(Dynamic Force Mode)
    カンチレバーを共振させ、振動振幅が一定となるように試料-探針間の距離を制御することで表面形状を測定します。また、試料と探針の相互作用によるカンチレバーの位相変化から、表面物性の分布 (位相像)を得ることができます。

  • KFM(Kelvin probe Force Microscope)
    ケルビン法を用いて試料-探針間の接触電位差を測定することで、試料表面の電位分布(電位像)を得ることができます。

  • FFM(Friction Force Microscope)
    探針を水平に走査した際のカンチレバーのねじれ変位を測定することで、試料表面の原子レベルの摩擦力分布(摩擦像)を得ることができます。
 下の図3は、各測定モードで得られた測定結果の画像です。

SPMで得られる測定画像

図3:SPMで得られる測定画像

顕微ラマン分光

 私たちの研究室では、作製したSiC上グラフェンの物性評価法の一つとして顕微ラマン分光装置を使用しています。
 顕微ラマン分光法とは、物質にレーザー光を照射したときに発生するラマン散乱光を分光することで、その物質の分子構造や結晶構造を同定する方法です。以下のような優れた特徴を持っており、炭素材料、半導体、化学、鉱物学、医薬品などの様々な分野で分析手段として用いられています。下に、この評価法の主な特徴を記します。

  • 気体、液体、固体などの物質の状態に関係なく測定が可能
  • 大気中で測定が可能
  • 非接触かつ非破壊な測定が可能
  • サブμmオーダーの高空間分解能をもつ
  • 面方向や深さ方向の測定データのマッピングが可能
 顕微ラマン分光装置による測定で、下図のようなSiC上グラフェンのラマンスペクトルを得る事ができます。スペクトルのうち、D peak,G peak,2Dピークなどがグラフェンに由来するピークで、これらを解析する事で、グラフェン層数や欠陥、SiC基板との応力などの解析・評価が可能です。

SiC上グラフェンのラマンスペクトル

図4:SiC上グラフェンのラマンスペクトル